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大阪地方裁判所 平成2年(行ウ)34号 判決 1991年11月27日

原告 杉本定治郎

右訴訟代理人弁護士 中川清孝

同 和気主

被告 農林水産大臣 田名部匡省

被告 大阪府知事 中川和雄

右被告両名指定代理人 小久保孝雄

<ほか一名>

被告農林水産大臣指定代理人 川合義弘

<ほか二名>

被告大阪府知事指定代理人 原正敏

<ほか一名>

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告農林水産大臣が、原告の昭和四一年八月二日付審査請求につき、平成元年一一月二二日付でなした裁決を取り消す。

2  被告大阪府知事が別紙物件目録二記載の土地につき昭和四一年五月三一日付達第二五〇号をもってした農地の売渡処分の取消処分は、これを取り消す。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  別紙物件目録一記載の土地(但し、平成元年五月一五日に二五番一、同番二に分筆、以下「一の土地」という。)は、花崎藤太郎(以下「花崎」という。)及び亡奥村辰次郎(以下「奥村」という。)の共有であった。

2  昭和二三年七月二日、被告大阪府知事(以下「被告知事」という。)は、一の土地全部を自作農創設特別措置法三条の買収適地として買収し、昭和二四年三月二日に原告に売渡し、昭和二五年八月二四日、所有権移転登記がなされた。

3  ところが、花崎及び奥村が、一の土地のうち、別紙物件目録二記載の土地(以下「二の土地」という。)は花崎及び奥村の自作地であることを大阪市城東区農業委員会に陳情したところ、同農業委員会は、二の土地は花崎及び奥村が占有耕作しているものと認め、これを受けた被告知事は昭和四一年五月三一日に一の土地のうち二の土地についてなされた買収・売渡の各処分を取り消す旨の処分(昭和四一年五月三一日付達第二五〇号、以下「本件処分」という。)をした。

なお、昭和三六年九月二七日、奥村が死亡し、二の土地に関する奥村の権利は奥村圭太郎(以下「圭太郎」という。)が相続していたので、本件処分の通知は、奥村へすべき分については圭太郎に対してなされた。

4  原告が、これを不服として、昭和四一年八月二日付で被告農林水産大臣(以下「被告大臣」という。)に審査請求(以下「本件審査請求」という。)をなしたところ、被告大臣は、平成元年一一月二二日付で原告の審査請求を棄却する裁決(以下「本件裁決」という。)をなし、右裁決書は、平成元年一一月二四日、原告に送達された。

5  しかしながら、被告知事の本件処分には以下の違法がある。

(一) 原告は、二の土地を昭和一五年ころから耕作占有していたのであり、原告が応召中の昭和一九年ころに、花崎及び奥村が二の土地を取り込み、その占有を侵奪したものである。

すなわち、原告は、昭和一五年以来、花崎及び奥村から一の土地及び一の土地に隣接する大阪市城東区《省略》二六番地の田(以下「二六番地の土地」という。)を借受け自ら開墾のうえ耕作してきたのであるが、原告が、昭和二一年五月一日に復員したところ、花崎及び奥村が、一の土地の一部である二の土地及び二六番地の土地を侵奪していたので、奥村と交渉し、侵奪している土地の返還を約束させたが、奥村は右約束を履行しなかった。

このように、原告は、賃借権を有していた二の土地について、昭和二四年三月二日付で売渡処分を受けたものであり、右売渡処分には何らの瑕疵もない。

ところが、被告知事は理由も示さず、二の土地について本件処分を行ったのであり、本件処分は理由の附記がない違法なものであり、また、本件処分には、取消範囲の地域を明示する図面の添付がなく現地において取消範囲を特定するための指標も存在しなかった。

これらの点からも、原告は、本件処分につき憲法一三条で保障された適正な手続を受ける権利を侵害されたというべきであり、本件処分自体違法である。

(二) 本件処分は、売渡処分後一七年を経過してなされたものである。

ところで、国民に権利その他法的利益を与えるような処分は、単に違法であるということだけで取消し得るものではない。処分庁がこれを取消すことができるのは、取り消すことの公益上の必要性が処分の相手方をして処分の取消により被る不利益を受忍させねばならないほどに重大な場合でなければならず、公益上の必要性が右の程度に達しない場合には、たとえ違法な処分であっても取り消すことは許されないというべきである。

本件処分は、花崎及び奥村の二の土地の侵奪という不法行為を追認した違法な処分であり、そもそも取り消すことの公益上の必要性がない上に、被告知事はそのような違法な処分を売渡処分後一七年も経過した後に行っており、本件処分により原告の権利及び法的安定性は著しく侵害され、原告の受ける不利益は甚大であり、この点からも本件処分は違法なものといえる。

6(一)  本件裁決は、審査請求がなされて後二三年を経てなされている。

(二) したがって、本件裁決は、正当な審査期間を超えてなされたものであって、違法である。

(三) また、本件裁決は、憲法一三条において保障される適正な手続的処遇を受ける権利を侵害しており、同条にも違反する。

6  よって、原告は被告大臣に対しては、本件裁決の取消を、被告知事に対しては、本件処分の取消をそれぞれ求める。

二  請求原因に対する被告らの認否及び主張

(請求原因に対する認否)

請求原因1ないし4、及び6(一)の事実は認める。

請求原因5及び6(二)、(三)については、否認ないし争う。ただし、本件処分に関する原告宛の通知書には、二五番の農地のうち本件係争地に係る二畝二九歩につき取消を行う旨の記載がなされているだけで、図面等が添付されていなかったこと、本件処分が、売渡処分後一七年を経過してなされたものであることは認める。

(被告の主張)

1 確かに本件処分には理由が付記されていない。

一般に行政処分をなすに当たっては、常に理由が示されねばならないものではなく、法令上特に理由附記が要求されていないときは、一般に理由を付さなくとも処分は違法とはいえない。本件処分の関係法令には取消理由を付することを要求する規定は存在しない。

2 本件処分の取消範囲は特定されている。

本件処分の原告宛通知書には、一の土地のうち二の土地に係る二畝二九歩につき取消を行う旨の記載がなされているだけで図面等の添付がなかったことは前記のとおりである。

しかし、本件処分当時、一の土地のうち、二の土地と原告耕作部分とは畦によって明確に区分されており、農業委員会の事情聴取等により二の土地の所在は原告や花崎ら関係者において十分認識されていたのであるから、本件処分の原告宛通知書の記載をもって、場所の特定に欠けるものとすることはできない。

さらに、昭和四一年一〇月四日、被告知事は、二の土地の位置関係を記載した図面を添付した「取消処分に伴う補正について」と題する書面を当事者双方に送付しているのであって、仮に本件処分に何らかの瑕疵があったとしても、右書面によって、その瑕疵は治癒されている。

3 本件処分は、売渡処分後一七年を経過してなされたものであるが、左記のとおり、その間、原告が二の土地を農地として耕作したことはなく、原告が享受した利益は、昭和四〇年から本件処分のなされた昭和四一年の間の約一年分の賃料収入にすぎず、本件処分により原告の被る不利益より違法な買収により旧所有者の被った不利益の方がはるかに大きい。このような事情の下では、違法な売渡処分を放置することによる公益上の不利益は、売渡処分を取り消すことにより関係者に及ぼす不利益に比してはるかに重大であり、本件置収及び売渡処分を取り消すべき公益上の必要性がある。

まず、原告は、二の土地を花崎及び奥村から賃借りして耕作し占有していた事実はなく、農地委員会が二の土地を含めた一の土地の買収計画について審理、承認した昭和二三年四月二七日の時点においても、原告が、二の土地を耕作し占有していた事実はない。

花崎及び奥村は、二の土地の原告への売渡処分がなされた後も、昭和三五年ころまで、二の土地の占有、耕作をしていたが、同年秋ころから周辺の宅地化により二の土地に水が溜まるようになったため、二の土地は耕作不能となった。

昭和三八年には、原告が二の土地を含めた一の土地の地盛りをして二の土地の占有を始めたが、何も耕作しないままであり、昭和四〇年から建設会社に右土地全部を資材置場として賃貸するようになった。

右建設会社は、昭和四四年一二月二九日、右土地を返還したのであるが、その際、二の土地は圭太郎に返還され、以後、圭太郎が二の土地を囲い込み、その占有を継続している。

4 本件裁決は、原告が昭和四一年八月二日付で被告大臣に審査請求をした後二三年を経てなされたものであるが、左記のとおり、裁決まで長期間要したことについて正当な事由がある。

昭和四二年、花崎及び圭太郎は、原告に対して、二の土地について所有権取得登記抹消登記手続請求の訴えを提起し(大阪地方裁判所昭和四二年(ワ)第四六五七号登記抹消等請求事件)、昭和五五年、原告も、花崎及び圭太郎に対し二の土地について明渡請求の反訴を提起した(昭和五五年(ワ)第七三二号)(右両事件を合わせて、以下「別件民事訴訟」という。)。

別件民事訴訟の主たる争点は、本件処分の効力についてであった。

そこで、右訴訟の結果や別件民事訴訟において両当事者から提出される証拠等は本件審査請求の審理において参考資料になるとの考えから、被告大臣は、裁決を留保して、別件民事訴訟の行方を見守ることにした。

別件民事訴訟は、昭和五五年一一月二七日、花崎及び圭太郎の請求を全面的に認容する第一審判決が出され、昭和五八年一二月六日、大阪高等裁判所において、控訴棄却の判決があり(ただし、一部請求の趣旨に変更等があった。)、これに対し、原告が上告するも、最高裁判所において、原告の上告は却下された。

ところで、被告大臣の担当者は別件民事訴訟も終結が近いと考えて、昭和五九年二月二三日、本件審査請求の代理人に対し、電話で口頭審理の手続の実施について打診したところ、右代理人から、本件審査請求について依頼を受けてから長時間経過しているので直接本人に確かめてほしい旨の返答であったため、直接原告と面談した結果、口頭審理に代えて書面による意見陳述を行うことになり、申立ての補充書が提出された。

被告大臣の担当者は、右申立ての補充書を審理し、内部検討を尽くし、被告は平成元年一一月二二日付で本件裁決をしたものである。

5 仮に、本件裁決が、審査請求がなされて後二三年を経てなされたことにつき、相当の期間内に裁決をしなかった違法な不作為があるとしても、それだけの理由で本件裁決が違法となるわけではない。

なぜなら、それだけの理由で本件裁決を違法として取り消すべきものとすると、単に同一内容の裁決がさらに遅れてなされるにすぎないという不都合な結果が生じるからである。

三  被告の主張に対する原告の認否

被告の主張に対する原告の認否は請求原因5、6に記載のとおりであり、すべて否認ないし争う。

第三証拠《省略》

理由

一  本件処分の違法性について

1  二の土地の賃借権について

(一)  《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる(一部当事者間に争いのない事実を含む。)。

原告は、昭和一五年ごろ、以降、花崎及び奥村から一の土地及び一の土地に隣接する二六番地の土地を借受け、自ら開墾の上耕作してきたが、戦争中で食糧事情が悪く、地主の要請があり、二六番地の土地の一部は、昭和一八年ころ、所有者に返還した。

原告は、昭和一九年七月、応召して原告方が人手不足となったこともあり、昭和一九年ころ、更に二六番地の土地の残りの部分と二の土地も所有者に返還され、原告が、昭和二一年五月一日に復員してきたときには、原告方は一の土地のうち二の土地を除いた部分を占有耕作しているのみであり、二の土地と一の土地のその余の部分との間には畦が設けられて両土地は明確に区分されていた。

この状態は、昭和二三年七月二日の時点でも同様であったが、被告知事は、一の土地と同地番内にあった二の土地をも自作農創設特別措置法三条の買収適地として買収し、昭和二四年三月二日、原告に売渡した。

そこで、花崎及び奥村は、昭和二七年ごろ、二の土地が同人らの自作地であるとして、二の土地を測量した図面を持参して大阪市城東区農業委員会に取戻方を陳情したところ、同委員会が双方の言い分を聞いて、あっせんをした結果、原告も二の土地を花崎及び奥村に返還することに一旦は同意したが、後にこれを拒絶するに至った。

このため、同委員会の進達に基づき、被告知事により本件処分がなされた。

(二)  右認定した事実によれば、原告は、昭和二三、四年当時そもそも、二の土地について賃借権等これを占有耕作する権原を有していなかったというのであり、したがって、二の土地を買収し、原告に売却した処分を取り消した被告知事の本件処分が、花崎及び奥村による二の土地の侵奪という不法行為を追認した違法な処分にあたるとはいえない。

2  本件処分と理由附記について

《証拠省略》によれば、本件処分の原告宛通知書には理由の記載が全くないことが認められる。

しかしながら、本件処分に理由の附記を必要とする法令上の根拠もなく、また、1で認定したとおり、本件処分に先立ち城東区農業委員会が原告の事情聴取をしていることからしても、原告は本件処分の理由を知り得たものと推認することができ、本件処分に理由が附記されていないことにより、原告が著しい不利益を受けるものとは考えられず、本件処分に理由の明示がないことをもって、本件処分が違法なものであるとまではいえない。

3  本件処分と取消範囲の特定について

《証拠省略》によれば、確かに本件処分の通知書には、取消の対象となる土地が城東区《省略》二五番の田一反八畝二二法の内二畝二九歩である趣旨の記載があるのみで、取消範囲の地域を明示する図面の添付がなかったことが認められる。

しかしながら、《証拠省略》によれば、本件処分後五か月以内に原告宛に送られた昭和四一年一〇月四日付の「処分取消に伴う補正について」と題する書面には、二の土地の範囲を示す図面が添付されていたことが認められるほか、前記認定のとおり、昭和一九年ころから二の土地と一の土地のその余の部分とは畦で区切られていたし、《証拠省略》によれば、二の土地は昭和三五年ころまで花崎及び奥村が占有耕作していたが、付近が宅地化して、右土地の水はけが悪くなったため、耕作できなくなり、その後、昭和三八年七月ころ、原告が二の土地を含む一の土地全体を土盛りしてかさ上げし、針金で囲いをして占有を始めたこと、昭和四〇年に原告は右土地を株式会社大林組に材料置場として賃貸したが、本件処分や花崎から別件民事訴訟が提起された後の昭和四四年一二月二九日、同会社は二の土地をその所有権を主張する花崎らに返還したことが認められる。

また、前記認定のとおり、本件処分に先立ち原告は城東区農業委員会から二の土地のことで事情聴取を受け、一旦は花崎らに右土地を返還することに同意したこともあった。

右認定の各事実によれば、原告は、本件処分がなされた昭和四一年当時、二の土地について、その範囲を十分に認識していたというべきであり、本件処分の通知書にその範囲が明示されていなかったために何らかの不利益を受けたと考えることはできないし、また本件処分に瑕疵があったとしても、前記認定のとおり、その後これを補正する手続が執られているのであるから、右瑕疵は治癒されており、いずれにしても本件処分に取消範囲の地域を明示する図面の添付がなかったことをもって、本件処分が違法なものであるとすることはできない。

4  本件処分が売渡処分後一七年を経過した後になされたものであることについて

二の土地は、昭和一五年ころ原告が借受け、占有耕作していたが、その後返還され、昭和一九年ころから昭和三五年ころまでの間は花崎及び奥村が占有耕作していたこと、ところが、同土地付近に水が溜まるなどして耕作不能となり、その後、昭和三八年七月ころ原告が右土地全体を土盛りしてかさ上げし、針金で囲いをして占有を始めたこと、昭和四〇年に原告は右土地を株式会社大林組に材料置場として賃貸したが、同社は、昭和四四年一二月二九日、右土地を花崎らに返還したことの各事実は既に認定してきたとおりである。

ところで、原告に対する二の土地の売渡処分は、講学上、授益的処分といわれているものであり、これの取消については、原告も主張するとおり、関係者にその取消による不利益を受忍させてもなお取り消さなければならない公益上の必要性があることが要件として必要であるというべきである。

そこで、本件処分について考えるに、右事実によれば、原告が二の土地の売渡を受けた後、昭和四一年五月に右処分が取り消されるまでの一七年間に現実に享受した利益は、せいぜい昭和四〇年から右取り消されるまでの約一年間の株式会社大林組からの賃料収入にすぎないのであって、本件処分により原告の権利及び法的安定性の侵害の程度はそれほど高くないということができる。他方、二の土地につき何らの権原のない原告への売渡は、そもそも自作農創設特別措置法の立法趣旨に沿わないものであり、その売渡処分を取り消す必要は極めて高いというべきであり、このような事情を考慮すれば、本件処分が、たとえ売渡処分後一七年を経過してなされたものであっても違法なものということはできない。

二  本件裁決の違法性について

本件裁決が審査請求がなされて後二三年を経てなされたことは当事者間に争いがない。

《証拠省略》によれば、昭和四二年、花崎及び圭太郎は、原告に対して、二の土地について所有権取得登記抹消登記手続請求の訴えを提起し、昭和五五年、原告も、花崎及び圭太郎に対し二の土地について明渡請求の反訴を提起した(別件民事訴訟)のであるが、別件民事訴訟の主たる争点は、本件審査請求における争点と同じく本件処分の効力の有無であった。

そのため、被告大臣は、別件民事訴訟において両当事者から提出される証拠等や更には右訴訟についての裁判所の判断が本件審査請求の審理においても重要な参考資料となると考え、とりあえず裁決を留保して、右訴訟の推移を見守ることにした。

別件民事訴訟は、昭和五五年一一月二七日、大阪地方裁判所において花崎及び圭太郎の請求を全面的に認容する判決が言い渡され、原告から控訴されたが、昭和五八年一二月六日、大阪高等裁判所は、控訴棄却の判決を言い渡し(ただし、一部請求の趣旨に変更等があった。)、これに対し、原告が上告したが、昭和五九年二月二四日、上告却下により、右判決は確定した。そこで、被告大臣は、本件審査請求の審理を進めることとし、原告書面により意見を徴したりした上で、平成元年一一月二二日、本件裁決をした。

以上の各事実を認めることができる。

ところで、不服審査手続においては、審査庁は、正当な理由がない限り、審査請求を受理した後、社会通念上相当と認められる期間内に裁決をすべきであるといわなければならないのであるが、本件裁決の審査手続には、右認定のとおり、裁決が相当な期間内になされなかったことにつき、これを許容することができると考えられる事情がある上、原告には、本件裁決を経なくても、本件処分の取消を求めて提訴する途もあったし(行政事件訴訟法八条二項参照)、また相当期間経過後になされた裁決がそれのみの理由により違法として取り消されなければならないとすれば、単に同一内容の裁決が更に後れてなされる結果を招くにすぎないとも考えられないではないのであって、本件裁決について、このような諸事情のあることを考え伴せると、本件裁決には、裁決まで長期間を要したことについて正当な事由があったということができ、審査請求後二三年を経て右裁決がなされたことをもって違法(憲法一三条の適正な手続的処遇を受ける権利の侵害も含む)とすることはできないというべきである。

三  結論

よって、原告の被告両名に対する請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 福富昌昭 裁判官 小林元二 大藪和男)

<以下省略>

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